「より伝わる」のは動画なのか?静止画なのか?

先日、日本人初のピュリッツァー賞を受賞された元毎日新聞カメラマン、長尾靖さんが他界されました。氏は昭和35年10月12日に起きた「社会党:浅沼稲次郎委員長刺殺事件」において事件現場を鮮明に捕らえた1枚の写真によって報道写真の最高位と言われるこの賞を受賞されました。この写真は(戦場などの特殊な環境下以外に於いて)「初めて捉えられた人が殺される瞬間」の報道写真として世界中に配信され多くの衝撃を与えました。

昨今はTVはもとより、ネットの普及、またネットに至っては高速回線の普及によって世の中は動画・静止画問わず映像というものがあふれる時代になりました。

実際、ネットニュースなんかでもただ文章だけではなくやはり写真や動画と一緒にアップされてるほうがより一層見てみようという気にもなるし、興味も引かれることは事実で、もはや動画・静止画ともに映像と言うものが「何かを伝える」と言うことに於いて不可欠なものになってきていると言う事でしょう。

また、近年は圧倒的に静止画より動画がもてはやされる傾向があるようです。動いて音が付いてないと物足りないという意見も多く聞きます。

しかし、こと「物事を伝える」という点で本当に動画が静止画よりも優れているんでしょうか?

長尾靖氏の訃報を聞いて、ふと「浅沼委員長刺殺事件」を例にその事を考えてみようと思いました。

あくまで同じ事件を伝えた動画と静止画の違いを考えるという意図で、政治的な意図や思想で書いてるわけではありませんのでご了承下さい。



テレビ放送開始30周年記念番組として1983年1月31日にNHK総合テレビで放送された「ドキュメンタリー ブラウン管の一万日 ~テレビは何を映してきたか~」で番組の冒頭に放送された事件のVTR映像。トップで紹介されるということはやはりテレビの歴史の中でこの事件が最もテレビという動画メディアの特性を表してるという事でしょう。事件直後にNHKは報道という判断の元、この映像を繰り返し流しましたが、昭和35年というまだテレビがお茶の間に普及して何年も経っていない時代でしたので、大変な賛否両論あったようです。それ以降はNHKとして正式に放送はしておらず、この番組で保存されているオリジナルVTRを23年ぶりに事件発生2分前からノーカットで放送しました。(短い時間に編集したものは2003年のテレビ放送開始50周年記念特番でも放送された)

これを見ると演説開始直後から相当場内がざわついており、野次もひどく、事件発生直前には司会の小林利光NHKアナウンサーにより、演説をいったん中断させて「静粛に聴きましょう」と促す一幕があったことがわかります。

事件はその後浅沼氏が再度演説を始めた直後に起きており、凶行の瞬間から、なおもどどめを刺そうとする犯人、取り押さえに壇上に駆け上がる人々、崩れ落ちる浅沼氏、騒然とする現場を一連の流れで余すところなく捉えています。

なるほど、この映像ではどのような状況で事件が起きたのか、現場の騒然とした状況がどうだったのか、それらが「一連の流れ」として理解できる。一言で言うと「事実関係のトレース」という感じです。

対して、長尾氏の写真。

長尾氏は、会社でヒマにしていたところを誘われて会場に行き、カメラマンの習性である「最後の1枚」のフィルムを残して(通称・・・命玉:いのちだまと呼ばれる行為)フィルム交換をし始めた時に起きたこの凶行を「命玉」の1枚で撮影しました。

こちらからご覧下さい。(動画もあります)

http://www.worldsfamousphotos.com/tag/japan

あまり見たくない写真ですが、映像に勝るとも劣らない臨場感、迫力で訴えかけてきます。表情まで鮮明に捉えたこの一枚はいろいろな事を考えさせてくれます。なぜ、この犯人は凶行に及んだのか、なぜこの二人はこのような形で対峙しなければならなかったのか、この時二人の脳裏によぎっていたものは何だったのか、いろいろなものが伝わってくると同時にいろいろな思いが頭をよぎります。ただし現場に居なかった者には「流れ」としては把握できません。(映像と合わせて見なければ、あるいは記事等の解説がなければこれが一撃目でなくとどめを刺そうとした二撃目であることさえもわかりません)

しかしながら、動画・静止画のどちらも画面に写らない「フレームの外」の状況までは描写する事が出来ません。(この時、舞台右袖では政治団体が激しい野次と共に壇上に向かってビラ撒きをしていたことなど)。これを補うためにナレーションや新聞記事などの補完も必要となってくることもまた確かです。

ご覧になられた方はそれぞれどうお感じになるでしょうか・・。

一例として実際の事件を挙げさせていただきましたが、事件に関係されました方々にはお悔やみ申し上げます。

事件でなくても、たとえば結婚式など。ビデオは確かにイベントの流れを正確に捉えて、出来事をリアルタイムで記録しています。当日の式の様子全体が良くわかります。(編集してないものをだらだら見せられるのは苦痛以外の何物でもありませんが・・・よくありますよね)。しかしながらたった1枚の動かない写真から「この時こうだったよねー」「この後あいつこうだったんだよなー」なんて会話が弾む事もあります。それぞれにはそれぞれが描き出す特徴が。だからきっと動画がメインの時代になっても動画と静止画はお互いの守備範囲の中で共存していくのだろうなと思います。

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