【映画】「アトミック・カフェ」(1982年)~原子爆弾という”虹色の恐怖”


映画は世界で最初の核実験、ニューメキシコ州アラモゴードで行われた「トリニティ実験」のカラー映像から始まる。世界初の核爆弾「ガジェット」の姿。「核の時代」の幕開けだ。

 8月中は忙しかったのでこんな時期になってしまったけど、毎年8月という月は私にとって「戦争」というものを考えてみる時期だったりする。もちろん実体験した世代ではないけど。

 私の育ての親父は海軍少年志願兵として予科練に行き上海で終戦を迎えている。そんな事もあって私が小さい頃はよく戦争の話を聞かされた。ほとんどは日本軍側からの解釈での話だったが。でも今になって思えばそういう戦時教育を受けて育ってきた人だったからそれが親父の中で当たり前の事だったんだろうと思う。戦争末期の劣悪な電波状況の中、上海でどうやって聴いたのか知らないが(多分基地には高性能なラジオもあったんだろう)玉音放送も聴いたそうでその時の様子は何度聞かされたか、である。

 その玉音放送だが、小学生の頃から疑問に思っていたことがあった。今年の終戦記念日の「サンデーモーニング」では玉音放送のオリジナル録音の全文を放送していたが、あれを聴いて当時の人は意味が解ったんだろうか?と言う事である。よく終戦を扱ったドラマなんかでは「玉音放送をバックに泣き崩れる市民」なんて描写がそれこそいっぱい出てくるが、あの漢語だらけの難解な文章が当時の人々の一般的な学力レベルで解るはずがない、と思っていた。百歩譲って「事前に重大放送と告知されていた」し、ほとんどの国民にとって天皇の肉声を聴くのすら初めてだからおそらく「周囲はただならぬ雰囲気だった」事からおそらくこれは「敗戦を告げる放送」なんだと感覚で察知したか、くらいはあったにしても。

 その後調べてみたらその謎はあっさり解けた。NHK発行の「放送50年史」という出版物によると、君が代→玉音放送→君が代と放送した後で、NHKの和田放送員(当時は戦時下なので当然アナウンサーとは言わず「放送員」と呼ばれた)による細かい解説があったという記録が残っている。つまりほとんどの人はその解説でポツダム宣言を受諾して日本が敗戦したと知ったという事だったようだ。だからドラマや映画のあの描写ははっきり言ってウソなんだろうけど、まぁドラマの絵的にはそうじゃないとどうにも決まらないのは確かなんだろうね。それとまた余談ですが「鬼畜米英」が終わったこの日から1ヶ月後には「日米会話手帖」という本が400万部も売れたそうで、なんか日本人の逞しさというか変わり身の早さというか、背に腹は代えられんとしてもすごいなぁとしか言いようが無い。


 私は山口県育ちで世界初の被爆都市である広島市はお隣の県である。近い土地柄のせいもあって原爆の話、被爆された語り部の人たちの話を聞く機会も多かった。でもやっぱり今ひとつ話だけではピンとこないのが正直な所だった。小学校5年の時、アマチュア無線の免許を取るため広島に初めて行った私は平和記念資料館に行き、そこでバラ色の科学万能時代が信じて疑われてなかった70年代に生きる小学生にはあまりに刺激の強すぎる展示物を見た。恐ろしくてしばらく食欲が出ないほどだった。多分最初にカルチャーショックを受けた体験だと思っている。それ以来広島、長崎の原爆投下という出来事は私の中に疑似体験ではあるが重く残っている。


 表題の「アトミック・カフェ」という映画は1982年にアメリカで公開された。日本では翌1983年に小規模ではあったがロードショー公開されており、私はその時渋谷かどこかの劇場で観て不愉快なような爽快なような何とも言えない不思議な気分になったのを覚えている。その20年後、2004年に東京など一部の都市で再公開された。

 この映画はドキュメンタリー映画であるが、正確に言うと普通のドキュメンタリーでは無い。膨大なフィルムを編集したドキュメンタリー映画で、使われた素材は全て1940~50年代に実際に製作・公開・放送されたアメリカ軍の記録映像、ニュース映画、テレビ番組、ラジオ放送、政府製作のプロパガンダ目的の広報フィルム等など。政府とメディアの大衆操作の実態を再編集によりブラックユーモアとしての側面を持たせながら鋭く見せる異色の作品である。監督はケヴィン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティの3人。

 元々は監督の一人であるピアース・ラファティが「アメリカ政府広報映画3433本」という本を読み、その馬鹿馬鹿しすぎる映画の内容にこれらを素材に政府による大衆操作(プロパガンダ)をテーマとした作品を作ろうと考えたのが始まりで、それからというもの、ありとあらゆる場所でいろいろなプロパガンダ映画を見まくり(1万本以上見たとの事)、結果的に原爆をテーマにしたプロパガンダ映画にテーマを絞り、その後5年の歳月をかけて編集作業を行い、映画は完成した。この映画にナレーションは一切無い。全て編集のテクニックだけで全編を見せきる、その手法と技術は素晴らしい。ちなみにこの映画の公開後、素材に使われた元のフィルムは簡単に見れないように厳重管理されてしまったとの事。そりゃそうかもね。

 内容はネタバレにならない程度に紹介するが、映画は1945年のトリニティ実験、広島、長崎への原爆投下から始まる。この冒頭近辺は日本人としてはかなり腹立たしいもので、広島へ原爆を投下したエノラ・ゲイの機長ポール・ディペッツ大佐やインタビュー前ににやけた笑顔さえ見せるトルーマン大統領などの話は、はっきり言ってむかつく。トルーマンなんかやたら「神」という言葉を使うが自分たちがこの世の神とでも言いたいのか。「パールハーバーを忘れるな」と良く日本に対して言うが、一発で非戦闘員の一般市民を含め20万人を無差別に殺したあんたらに言われる筋合いは正直無いと個人的には思う。


勝利に沸くアメリカ。この時点では原子爆弾はたった2発で戦争を終わらせ、「世界一強いアメリカ」を証明した”虹色の兵器”だった。広島や長崎の破壊と放射能汚染による目を覆うような現状はほとんど報道されなかったと思われる。


アメリカ軍の広報映画の中にはこんなカットまで登場する。

 その後、島民にでたらめな説明をして島を追い出し行われた、ビキニ環礁での公開核実験で原子爆弾の圧倒的破壊力を公開核実験という形で国民に見せ、その威力にアメリカはますます調子付いていく。放射能による汚染の実態だけは報道されずに。

 ところが1949年にソビエトが原爆実験に成功するや否や状況は一変していく。忍び寄る共産主義と原爆攻撃の恐怖。アメリカを勝利に導いた原子爆弾はやがていつアメリカに落ちるかもしれない恐怖の兵器と変わってしまう。


 そして1950年代には米・ソ双方が水素爆弾の開発に成功。来るべき核戦争に備えて原爆使用下における軍事訓練が行われるようになる。自国の同胞兵士たちにさえも「放射能はたいしたこと無い一番どうでも良いもの」とデタラメな説明をし、オモチャのような「放射能測定器」だけを胸につけさせて・・・。


原爆を使用した軍事訓練。被爆に苦しんだのは日本人だけでは無い。「アトミック・ソルジャー」と呼ばれた彼らもまた「核の犠牲者」であり、後年放射能障害に苦しむことになる。

 そんな中、「第五福竜丸事件」が起こる。日本のマグロ漁船がアメリカの水爆実験に巻き込まれ、船員の被爆の実態が報道されると民間に一気に核戦争に対する恐怖が広がり始める。家庭用の核シェルターが商品化され、子供向けにさえも自衛のための教育フィルムが作られる。もはや完全に原子爆弾は"身近な恐怖の兵器”と変わったのだった・・・。


 これらの内容がたっぷりと皮肉を込めたブラックユーモアを交え、展開されていく。もちろん製作当時は大真面目に作られたものをつなぎ合わせているだけなのだが、現在の全てが知られた状況の中ではもはや不謹慎ながらギャグでしかない。この映画はそうした手法で政府によるプロパガンダのいいかげんさをあぶり出し、フィルムそのものに語らせているのである。そしてこれをさらに効果的にしているのがバックに流れるポップなカントリーソング調のあまりにも能天気な「核ソング」の数々。核爆弾が”虹色の兵器”だった1940~50年代頃のアメリカで作られた音楽であり、その歌詞はあまりにもアレで現在の感覚ではもう理解の範疇を超えている。(ちなみに1983年の初公開時にこれらの音楽はサントラ盤としてCDが発売されている。当然ながら現在は絶版)

 とにかく全編を通して被爆の実態を知っている私たちにとっては「こんなものが実際に作られて信じられていたのか」と驚きの連続で、はっきり言ってもう失笑しか出てこない。



特にこの作品の白眉といえるのは「亀のバート君」が出てくる子供向けの防衛教育フィルム「ダック&カヴァー」。核兵器がピカっと炸裂したらすぐさまダック&カヴァー(さっと隠れて頭を覆え)で身を守れ、と教えるこのフィルム。もうね、広島・長崎を知る私たちにはただただあきれるばかり。でも当時のアメリカ人はこれをかたくなに信じていたのかなぁ?どうなんだろ。


いざというときは、素早く「ダック&カヴァー」。これじゃ焼夷弾からさえも身を守れないと思うけど。

 映画の中ではこの作品はある意味意図的に編集されていますが、Youtubeにこの「ダック&カヴァー」のオリジナルがアップされているので貼っておきます。

 オリジナルと見比べるとどのように編集して使われているかがわかります。
 

とにかくブラックユーモアを含むアンチ・プロパガンダ・ムービーとしては非常に良くできている映画で一見の価値はあると思います。

そしてこの映画は同時にもう一つの事を教えてくれます。「情報というのは編集次第でいくらでも操作ができてしまうもの」であるということ。プロパガンダムービーを編集することによってアンチプロパガンダとしたこの作品自体が皮肉にもそれを証明しているともまた言えなくは無いでしょうか。

 そして更に皮肉なのは、監督のラファティ兄弟はなんとブッシュ大統領の従兄弟だということ。これには心底驚いたのでした。

この作品は2004年12月に竹書房からDVDが発売され、絶版になっていますが、現在でもTSUTAYAではレンタルで置いてる店もあるし、オンラインレンタルでも借りられます。

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