阪神・淡路大震災を予見したラジオ番組

2つ前の記事にKRY山口放送の防災イベントの記事を書きましたが、これはラジオ編制部による企画イベントでした。現在はあらゆる種類のメディアがありますが、やはり「災害」に一番密着しているメディアといえばAMラジオというイメージがあります。同じラジオでも短波放送やFM放送にはそんなイメージはありません。まあ短波放送はもともと全国放送ですしNHKかラジオNIKKEI(旧ラジオたんぱ)くらいしかないので少々性格が違いますが、FMはもう少し災害ライフラインメディアの自覚を持ってもいいんじゃないかと思います。昔はポケットラジオと言えばAMラジオくらいでしたが、最近の携帯電話やMP3プレーヤーにはFMの受信機能を持つ物も多いので、ひょっとすると今はAMラジオを常に持ってる人よりそうしたものを持ち歩いて「FMなら聞ける」という人の方が多いんじゃないかという気がします。まぁ、余談ですけど。

山口放送に限らず「ラ・テ兼営局」と言われる、テレビとAMラジオのどちらも持っている局、もしくはAMラジオ専業局に至っては昔からの経緯もあり、押し並べて災害報道意識は高く、また熱心です。どこのAMラジオのスタジオにも必ず「生放送中の災害発生時に放送するべき内容の原稿」が見やすい位置に貼ってありますし、災害発生時は即座に録音やネット番組から生放送に切り替えて対処する体制が常に整えられています。また時折防災イベントを行ったり防災意識の啓蒙番組を流すこともあり、いざという時頼りになる存在と言えます。

平成の大災害の一つ、まだ記憶に新しい阪神・淡路大震災。大方の人の「大地震が来るなら関東なんじゃないか」という想像を裏切り、阪神地区を突如襲ったまさかの大災害でした。しかしながらあまり大きく取り上げられる事はなかったのですが、震災以前に「阪神地区にも大きな地震の恐れはある」という研究結果による予測もなされていました。そしてその研究結果を元にして「大阪近郊にもし大地震が起こったら」という想定で大規模なシミュレーション番組が大阪・MBS毎日放送の製作で放送された事がありました。阪神・淡路大震災を遡る事17年、1978年の事でした。

1978年11月23日午前5時、それまで10KHz間隔だった日本のAMラジオ局の周波数が国際的な取り決めにならって9KHz間隔に変更になりました。日本のAMラジオ局の全てが一斉に周波数を移動するという大作業でした。各局ともリスナーへのその周知に追われながらも新しい門出に合わせて特番を組む局も多く、ある意味一種のお祭りイベントでした。

大阪・MBS毎日放送も1180KHzから1179KHzに周波数が変わる事になり、その対応に追われながらもそれを記念してその当日に特別番組を放送することになりました。しかしその企画はお祭りムードとは無縁の、非常に硬派な前代見聞の番組でした。発表された時、業界内ではかなりの話題になりました。「そんな番組が成り立つのか、また無事に放送できるのか」。

MBS毎日放送の周波数変更記念特別番組は、「もしも大阪地区・阪神地区を関東大震災級の地震が襲ったら」という想定でその時どうなるのかを検証する番組でした。そしてその内容は「専門家によるスタジオ討論と解説」と「被災現場で何が起こっているのか災害状況を刻々と実況し伝える架空のニュース実況音声」によって進行するというおふざけ一切無しの架空ドキュメンタリー形式によるものでした。

「架空のニュース実況を延々とラジオで流す」これが報道機関であるラジオにとってどういう事なのか、またこのようなお堅い特番の企画に「他局に比べて聴取率の数字はまず取れないだろうが社会的に非常に意義があるものだ」としてGOサインが出たことが当時の業界内では結構驚きをもって受け止められました。

現在ではいろんなメディアがありますので、あまりピンと来ないかも知れませんが、過去にラジオは何度か誤報やおふざけ報道により大騒ぎを起こしてしまった事があります。

1930年代にはアメリカのラジオ局がハロウィン企画としてH.Gウエルズの「宇宙戦争」をラジオドラマ化した時に「火星人が地球襲撃を始めました。ただちに避難して下さい」という内容を非常に緊迫したリアルな演技で演じきって放送した事から街がパニックに陥ってしまったという事件がありました。もっともこれには「実際パニックは起きなかったが放送の後にマスコミがおもしろおかしくそのように報道して今に伝わっている」という説もあります。

日本で有名なものと言えば「吉田拓郎死亡放送事件」があります。1981年「オールナイトニッポン」にゲスト出演予定だった吉田拓郎が風邪による発熱で出演不可となった時に、担当ディレクターと代役アナウンサー(つかちゃんこと塚越孝)が「何かおもしろいことをしよう」と、番組冒頭のテーマ曲である「ビター・スゥイート・サンバ」を「葬送行進曲」に変更し、番組内容も「吉田拓郎さんを偲んで(ただし番組中一言も「死んだ」とは言わなかったとされている)」的な内容で放送したところ、局に電話が殺到し他のマスコミも巻き込んでの大騒ぎになってしまいました。

報道機関として信頼されていればいるほど、「架空のニュースを流す」という事のリスクはかなりのものがあります。

これらの伝を踏まぬ様、この特別番組では架空のニュース実況の間、ニュース音声にコンピューター合成風に加工した女性アナウンスで「ただいまお送りしている放送は毎日放送周波数変更記念特別番組です。お聴きの内容は事実ではありません。ご了承下さい」という音声を被せ続けることによりリスナーの勘違いを防ぐという形で放送されました。その結果危惧された問題などは起きずに済んだようです。

番組内容自体は非常に良くできた架空シミュレーションで長時間ながら飽きさせることのない優れた防災意識啓蒙番組でした。この番組中で実況音声として流されたニュース音声の中には阪神・淡路大震災で不幸ながらそのとおりになってしまったものもありました。

阪神・淡路大震災から13年、私の住む地域でも直撃ではありませんでしたが、広島芸北地震や福岡西方沖地震などを体験しました。こういった時は日頃の心構えが物を言うということもおぼろげながら実感として持っています。震災直後から「被災しなかった人への情報はいらない」との報道姿勢でひたすら被災者のためだけの情報を提供しつづけたMBSラジオ。この番組自体はMBSのライブラリーには残っていると思いますが二度と公表されることは無いでしょう。でも震災以降、MBSをはじめ大阪の放送局では防災意識の向上を目指した特別番組が多く製作されています。被災した地域の局であるからこその視点で作られるこれらの番組には「減災」への思いが非常に強く込められています。そして近畿圏のラジオ局の共同制作による防災番組の放送などの活動も続いています。2度と震災など起きては欲しくありませんが、まさかの時の為にこういった活動は長く続けて欲しいと思います。

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